
ホテルの厨房は、朝食や夕食の時間以外にも、設備も広さも残っています。その空き時間を、地域の料理人や小さな飲食事業者に貸し出す——そんな「厨房のシェア」が、宿泊施設の新しい収益づくりになります。
株式会社グローバルリゾートレジデンスのYouTubeでは、宮島対岸のホテルで、ランチの時間帯に厨房を貸し出すシェアキッチン活用が紹介されています。本記事では、この動画を起点に、ホテルの遊休時間を収益に変えるときに先に決めておきたい6つの実務ポイントを整理します。食品営業許可やHACCP、清掃と動線、賃貸条件、料金設計まで、アイデアを「続く事業」に変えるための確認事項です。
この事例を30秒で
- 題材:宮島対岸ホテルのランチ時間帯に厨房を貸し出す活用例
- 発想:宿泊事業で使う時間と、地域の飲食事業者が使いたい時間を分ける
- メリット:厨房設備を増やさず、空き時間に新しい売上・接点をつくれる可能性
- 難所:誰が営業者か、どの許可が必要か、清掃・食材・鍵を誰が管理するか
- 注意:動画は活用アイデアの紹介。現在の募集条件や運用状況は施設への確認が必要
動画で見る「ランチ時間だけ厨房を貸す」という発想
この活用の面白さは、ホテルを飲食店へ変えることではありません。宿泊者向けの朝食や夕食と時間をずらし、使われていない時間帯に別の事業者が厨房を使えるようにすることです。ホテル側は設備の稼働率を上げられ、料理人側は店舗を一から持たずに販売や出店を試せます。
ただし、厨房を貸せば自動的に利益が出るわけではありません。食品を扱う以上、許可・衛生・責任の所在を曖昧にできません。ホテルのブランドや宿泊体験を守りながら、誰が、いつ、何をするのかを細かく決める必要があります。
ホテル厨房のシェアで先に決める6つのポイント
1.空き時間を「感覚」ではなく時刻表にする
まず、ホテルの厨房が本当に空いている時間を1週間単位で書き出します。朝食の仕込み、チェックアウト後の清掃、夕食の準備、スタッフの休憩、納品の時間を含めて、厨房を使える時間と使えない時間を分けます。
「ランチの時間なら空いている」と思っていても、午前中に仕込みが残ったり、午後に洗浄や発注が入ったりします。貸出可能枠を最初から短めに設定し、延長ではなく次の利用者へ引き渡せる運用にすると、ホテル本体の業務を圧迫しにくくなります。
2.誰が食品営業の責任者かを一文で言えるようにする
厚生労働省の営業規制では、飲食店営業は食品衛生法上の営業許可業種に位置づけられています。シェアキッチンでは、ホテル運営会社、厨房を借りる料理人、販売主体の会社のどこが営業者になるのかを、契約と保健所への相談で明確にします。
営業者が変わるたびに許可の扱いが変わる可能性もあります。メニュー、持ち帰り、菓子製造、酒類提供、仕出しなど、提供方法によって必要な確認が増えるため、「厨房が許可を持っているから誰でも使える」とは考えません。
3.HACCPを「借りる人任せ」にしない
厚生労働省は、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理を求めています。小規模な飲食店でも、衛生管理計画を作り、手洗い・温度管理・交差汚染防止・清掃などを実施し、記録を残すことが基本です。
シェアキッチンでは、利用者ごとに衛生意識や経験が違います。ホテル側が共通のチェックシート、冷蔵庫温度の確認、器具の洗浄基準、アレルゲン情報の扱い、異常時の連絡ルールを用意し、利用前に説明します。記録が残る仕組みまでが貸出設備です。
4.「使える厨房」と「貸せる厨房」は違う
厨房の広さや機器の数だけでなく、搬入口、手洗い、冷蔵・冷凍庫、ゴミ置き場、客席への動線、従業員用トイレ、火気、換気、電気容量まで確認します。宿泊客の動線と重なるなら、食材や調理器具を運ぶルートを分ける必要があります。
共有する物と専用にする物を決めることも重要です。包丁や布巾、調味料、食器、容器を共用するのか。冷蔵庫の棚を分けるのか。鍵を誰に渡し、利用終了時にどこを確認するのか。曖昧なまま始めると、紛失や衛生トラブルの原因になります。
5.料金は「場所代」ではなく、使ったコストから組み立てる
利用料は、近隣のレンタルキッチン相場だけで決めません。電気・ガス・水道、清掃、消耗品、リネンやゴミ処理、予約管理、スタッフ立会い、故障や破損への備えを積み上げます。ホテル側の最低限の固定費を回収し、追加利用が増えるほど利益が残る価格を設計します。
時間貸し、半日貸し、月額契約、売上連動のどれが合うかは、利用者の業態で変わります。初めて使う人には短時間の試験出店、安定した事業者には定期枠というように、入口と継続の料金を分けると検証しやすくなります。
6.宿泊と地域の食を、別々の売上にしない
厨房の貸出を単なる賃料収入で終わらせず、宿泊プラン、テイクアウト、地域イベント、朝食、料理体験と接続できるかを考えます。宿泊者が昼に地域の料理人の味を楽しみ、料理人がホテルを新しい販売拠点として知ってもらう。双方に送客が生まれれば、設備の稼働率以上の価値になります。
一方で、宿泊客にとっては「いつ行っても同じ品質」が安心です。シェア利用者を増やすほど、営業時間、におい、音、表示、接客の基準を揃えます。新しい売上がホテルの印象を下げてしまえば、長期的には損になります。
公開情報で確認できること/個別に確認すること
| 項目 | 動画・公的情報で確認できること | 運用前に個別確認すること |
|---|---|---|
| 活用例 | 宮島対岸ホテルでランチ時間帯に厨房を貸し出す事例を動画で紹介 | 現在の利用者募集、利用時間、料金、提供メニュー |
| 営業許可 | 飲食店営業は食品衛生法上の許可業種 | 営業者、業種、施設基準、保健所との協議内容 |
| 衛生管理 | HACCPに沿った衛生管理と記録が原則必要 | 温度記録、清掃表、手洗い、アレルゲン、事故時対応 |
| 施設 | ホテルの既存厨房を時間帯で活用する発想 | 搬入口、冷蔵庫、ゴミ、火気、換気、客動線、鍵 |
| 収支 | 空き時間に新しい収益機会をつくる考え方 | 水道光熱費、清掃、人員、修繕、保険、稼働率 |
現地調査で聞く7つの質問
- 厨房を使える時間を、ホテル本体の業務と重ならずに示せるか
- 食品営業の許可申請者・営業者・責任者は誰か
- 借り手が変わるたびに必要な届出や確認はあるか
- 冷蔵庫、食器、調理器具、食材、ゴミをどこまで共有するか
- 清掃・消毒・温度記録・事故連絡を誰がいつ行うか
- 利用料に電気・水道・消耗品・立会い・修繕を含めるか
- 宿泊客への案内や地域との連携が、ホテルの価値を高めるか
厨房のシェアは、ホテルの仕事を増やすのか
答えは、設計次第です。利用者ごとに個別対応を続ければ、ホテルスタッフの仕事は増えます。反対に、時間枠、料金、許可、衛生、鍵、清掃、記録を標準化できれば、使われていない設備を地域の挑戦と収益へつなげられます。
宿泊施設の再生では、建物を改装するだけでなく、時間の使い方を変えることも価値になります。空いている厨房、会議室、駐車場、ラウンジを「誰に、いつ、どの条件で貸すか」から考えると、追加投資を抑えながら新しい事業の入口をつくれます。
関連情報
※本記事は公開情報をもとにした一般的な解説です。食品営業許可、施設基準、HACCP、消防、保険、賃貸条件は、営業内容と地域によって異なります。開始前に所管保健所、消防、建築担当、専門家へご確認ください。動画で紹介された施設の現在の募集条件・運用状況を保証するものではありません。




